御礼

なにせ業界に(も)友達がいないので、ふだん「本をいただく」ことなどほとんどないのですが、珍しくいただきもの。


悪魔とハープ―エドガー・アラン・ポーと十九世紀アメリカ

悪魔とハープ―エドガー・アラン・ポーと十九世紀アメリカ


ポーは以前、一通り読んだ記憶はあるのですが(やっぱ「赤死病の仮面」とか「アッシャー家の崩壊」とかの妖しげな雰囲気に魅かれたものでした。あ、「黄金虫」もよかったなあ。冒険心を刺激されました)、この本もたいへん興味深く読ませていただきました。

オーソドックスな手法の作家論・作品論で、たとえば「優れた作家としてのポー」と「人種差別者としてのポー」とをどう折り合いを付けるか、などという問題に対して真摯に考えており、とても勉強になりましたが、この本のキモは、なんといっても「あとがき」(池末氏執筆)でしょう。ちなみに、著者のお二人は、ご夫婦で(だよね??)、今は僕と同じように地方の旧国立大におられます。。

 それにしてもここに至る道は長かった。ここに至るまで著者双方の身の上には、善きことも、悪しきことも起こり、それに伴う様々な喜怒哀楽を通過してきた。そしてこの長い道程で、「文学研究」を志す私達の考え方や、私達の内面そのものも次第に変化していった。人格、業績共まことに優れた多くの研究者がこの分野にはいらっしゃり、前述したように、なんどもそうした方々の何気ない厚意によって救われてきた私達ではあるのだが、同時に、この救いようのない現実世界に対する「文学」の無力さを至る所で痛感し、またそれが組み込まれている「アカデミズム」の鵺のような醜悪さと、そのやりきれない愚鈍さを目撃してきた。例えようもない脱力感だけがいつも苦々しく残る中で、常に自問せざるを得なかった。私達がこの領域の中で、本当に為すべきことは何であろうか。残念ながら、今なおその問いに対する答えが見つからぬまま、時間だけが徒に流れ去り、今日のこの場所に辿り着いている。こうした情けない不明ぶりを恥じつつ、数多くの恩師、恩人の方々に、ご期待を裏切り続けたことをお詫びしたい。


いや〜不覚にも、ここを読んで涙してしまったですよ。この「あとがき」を読むだけでも、一読の価値ありです(?)。