檔案をめぐって

まず断っておくと、ぼくは檔案を使って仕事をするタイプではありません。なので、檔案屋さんからすると「なにいってんだこいつ」みたいなことなのかもしれませんが、その場合には訂正お願いです。


こちらのエントリを読んで。

http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20080227/p1

朝日新聞 08年2月27日朝刊

「2・26」の引き金 相沢事件 青年将校の動機 克明 公判記録、中国に

 第2次世界大戦前の1935年(昭和10年)、相沢三郎陸軍中佐が陸軍省最高幹部を斬殺し、翌年の2・26事件の引き金の一つになったとされる「相沢事件」の軍法会議の内容を憲兵隊が記録した極秘文書が、中国・吉林省公文書館にあたる檔案(とうあん)館で見つかった。朝日新聞記者が複写を入手した。2・26事件の前日に繰り広げられた法廷での応酬や、同事件による中断後、完全に非公開とされた公判の概要などが、治安当局の目で記録されている。相沢事件の正規の公判調書は残っていないとされ、研究者は「法廷にいた憲兵が記録した価値の高い一次資料」としている。
(後略)


あれっと思ったのは、「朝日新聞記者が複写を入手した。」というくだり。


檔案館といえば、中国の奥の院(違)。通常の紹介状程度(地元の大学の先生の、とか)で入れてくれるのは、北京・上海・南京・広州ぐらいじゃないですかね。上海は紹介状すら要らなくなりましたが。

で、東北部の檔案館って、かなりの鉄の門だと聞いたことがあります。

「よく「入手」できたな」というのが、第一感。


で、さらに引っかかったのは、「複写を」の部分。

もちろん、現物を手に入れられるわけではないので、複写なのは当然なのですが、しかしこの書き方、なんとなくですが、「普通に申請して檔案館に入り、資料収集をした」のではないな、ということを思わせます。

まあ、それもまたまた当然。研究者でも難しいのに、新聞記者の方がほいほいと檔案館に入れてもらえるとは思えません(なお、言うまでもないですが、「研究者は新聞記者よりも偉い」とか言いたいのではありません。現状では、檔案に直接アクセスできるのは、少なくとも日本人では、研究者だけだろう、ということです。また、檔案の検索はなかなかに高度な技術を必要としますので、本当の専門家(この問題を専門に研究している)じゃないと無理でしょう。たとえば、僕が仮に檔案館に入れてもらっても、お目当ての資料にたどりつくには、果たして何日かかるやら)。


で、純粋な疑問として、この記者が、どうやって資料を手に入れたのか、かな〜り気になります。「日本人研究者が手に入れたものを見せてもらった」なら、その旨書き入れるだろうし(「K大学のsean教授が発見した」とか)、ってことは、中国人側からの提供、ということでしょうかね。研究者か、檔案館の職員か。そうなると、「後門」からなんでしょう。そりゃまあ、詳細は書けませんわね。


まあ、僕の分野は関係ないですが、記者と研究者って、けっこう対立するものらしいですしね。中国考古学の人が、「N○Kが来た後は、ぺんぺん草も生えない」とぼやいたのを聞いたことがあります。


もちろん、元記事のコメント欄でも言われていたように、可能性としては、捏z(ry


【追加】
そうそう、一口に檔案館に「入れてくれる」といっても、目録だけは見せてくれる、実物は見せてくれるがコピー不可、コピー可能(だが一日に何枚まで、とか細かい規定あり)、等等いろんなバリエーションがあるのです。で、「コピー可」まで持ち込むのは、こりゃなかなかすごいですよ、たぶん。

こんなことを思うのも、今オレが現に香港で資料調査しているからでしょう。ちなみに香港はユルユルですよ。大陸の檔案館のやつら(というか実際にはもっと上のほうのやつらでしょうが)に爪の垢でも飲ませてやりたいものです。