落としどころ

一昨日のNHK討論番組で、ちょっと気になったこと。


麻生氏が「とにかく商売ですよ。商売でお互いに利益があれば、自然と友好も形成されるんです。私は以前商売人だったからよくわかります。がっはっは」と大胆にまとめて、それにスタジオ全体が−あの姜尚中までが−わっはっは、と和んだことです。


「商売」に落としどころを見つけるやり方は、一見よさそうに見えて、その実諸刃の剣です(なお、別に「商売に落としどころを見つけるのが悪い」とかそういうわけではありません)。この理屈だと、「商売さえうまくいっていれば、大丈夫」という理屈に正当性を与えてしまうからです。


実際、小泉首相の理屈はそうでしょう。政冷経熱なんて言葉は手垢が付いてあんまり使いたくないのですが、でもこの言葉に尽きます。今のところ、日中の経済方面には悪い話は聞こえてきません。姜さん的な左派は「このままだと政冷経熱が政冷経冷になってしまう(→だから友好が必要→だから靖国ダメ)」といいたがりますが、どうもこれは当てはまらないようです。たぶん、日中の取引企業同士の宴会では、相も変わらず「今、政治はいろいろ問題がありますが、しかしこうやって経済の交流を盛んにし、お互いに利益を得ることで、日中の関係をよくしていきましょう!乾杯!」「乾杯!」みたいなやり取りが日夜繰り返されていることでしょう。


経済関係が良いなら、政治はどうでもいい。もちろん関係は良い方がいいけど、かといって、中国に頭を下げてまで良くする必要はない。むしろ、経済至上主義者にとっては、昨今の日中政治問題はエンターテイメントであり、アメリカの経済人が「パールハーバー」を見て楽しむように(そして見たからといって、彼らが日本と取引をやめるわけではないように)、「中国に対し強い日本」という政治劇場(小泉劇場?)を楽しんでいる、ように思えます。


姜さんは放送中、「政治と経済を分けて考えるのは危険だ」といっていました。しかしこれは、「実際に危険である」というよりは、政治経済というのは一体化したものなのだ、だから、政治は大事なんだ、と一般国民に「思ってもらう」ために、言葉は悪いですが「危険を煽る」ために、姜さんが繰り返し主張している、のではないでしょうか。しかし現実には、少なくとも今の時点では、この両者はそれほど関係ありません。中国で反日デモが起こったり掲示板が「日貨排斥」を叫んでも、貿易量に変化はありません。その逆もしかり。とすると、小泉首相が「参拝しても日中関係は大丈夫」と根拠レスに訴えることが、期せずして現実となってしまう。なので、左派にとっては、「経済へ落とし込む」ことはあまり得策ではないかも、と思うのでした。