手強い相手

卒論シーズン。


今年の卒論生は一人だけ。

この学生さん、今まで僕が見てきた中でも抜群にデキる。

その分、卒論指導でもなかなか手強い。僕が「こういうことなんだよね?」とか「こうしたら?」とか誘導しようとしても、なかなかうんと言わない。「いや、そうじゃなくて……」と粘ってくる。

う〜ん、厄介だ……


……あれ、この光景、どこかで既視感が……

……あ、おれの院生時代の論文指導だ……

(ちなみにオレはヘタレだった−今でもですが−ので、卒論の時には、とてもこういう「反抗」はできませんでした)


考えてみるとですねえ、僕は今まで、まあ少なからぬ数の研究論文を読んできているわけです。なのでもう、パターンが分かってきている。あ、この論文はこのパターンね、これはこっちね、と。

ミステリマニアは、作品の冒頭を読んだだけで「あ、これはこのトリックのパターンね」とほとんど当てることが出来るそうですが、そんな感じ。


なので、学生の卒論を読んでも、「これはこのパターンね」「じゃあこれはこう論を進めるべき」「これじゃパターンを外れちゃうでしょ」みたいに、ついついやってしまうわけです。

(まあちなみに、最近は、自分で書く論文も、そのパターンを遵守するものになってきているのが悲しい。「よしこのパターンにしよう。だったら、こうしとけば無難だろ」と)

しかし、学生さんは、読んだ論文も数少なく、また自分で論文を書くのもほとんど初めて。なので、教師から「これはこうしておけ、それがお約束だ」といわれても、「えっでも……」と反発を覚えるのは当然です。


もちろん、論文を書くとはある意味でお約束を踏襲していくものだから、ここで教師の言うとおりに書く、というのは鉄則だし、成長、なのかもしれません。

でも……


なんというか、自分が失ってしまったものを、ふと気付かされた感じです。