特殊な業界

大学の教員って、なかなか独特な職業だと思います(っていっても、他の職場で働いたことがないので、厳密な比較はできませんが)。


なにがって、「職場」と「仕事」との、結びつきの弱さ。

とくに若い教員とか、あるいは最初に勤めた大学に対しては多くの教員がそうだと思いますが、その大学に対するこだわりとか愛情とか、そういうのは、ほとんどの場合ありません。母校に勤めたとか、そういう場合は別でしょうが、たいていは、「そこしかなかった」から、あるいは「たまたま」、そこに勤めているのです。


もちろん、他の職業にしても、「オレは自分の会社を愛している」という人がそうそう多いとは思えませんが、それでも、そういうのがあるように振る舞わなければならないのが、民間だと思います。「自分の会社が、同業他社と比較してどれだけ優れているか」ということを、ウソでもいいから、それなりにはわきまえることが、必要とされる。

しかし大学の場合、「自分の勤めている大学をPRしろ」とか「宣伝しろ」とかいわれても、困ってしまう人がほとんどではないでしょうか。自分の研究についてなら、「ここが優れている」「ここが人とは違う」というのをアピールできるでしょうが、じゃあその研究や教育を、「この大学」だからこそできる、という理屈は、普通はありません。「たまたまこの人が今この大学にいるから、この大学ではこういう教育ができる」としか、いいようがない。


もう一つ、教育って、「模倣困難性」にはそぐわない産業分野なんじゃないか、というのもあります。それは、例えば大学の場合、教員の流動性が高い、というのもありますし、またそもそも教育が持つ「道徳性」(といっていいのかわかりませんが)からしても、「うちの大学にしか流通させない、他の大学には教えない」みたいな態度は、いけないことだ、みたいなのもあります。ゆえに、比較広告も打ちづらい。「うちは隣のE大学やT大学より、ずっとずっといい教育をしてまっせ」みたいなCMを流そうもんなら、すかさずその大学の品(ひん)が下がってしまうでしょう。


……と考えると、教育産業って、既存の分析では計れないような「なにか」があるようにも思うのです。


さて、「うちの大学にはなんの思い入れもない」とはいいましたが、もちろん、「だから教育なんて適当でいいんだ」などというわけではありません。僕は僕なりに、教育も研究も頑張ってはいるし、自分の学生にはできるだけサービスしてあげたい(サービスという言葉は嫌いな人・教育にはそぐわないと考えている人もいるようですが、僕は別に抵抗ありません)、とは思っております。でも、それは別に「○○大学だから」というわけではない。


だから、高校訪問とか行かされると、困っちゃうんですよね。うちの大学をアピールしろとかいわれても……