昔はよかった

opemuさん経由でこちらとかこちらをみると、いやはや凄まじい。「今、私は明治の初年に明治天皇が示された「五箇条の御誓文」の精神に立ち返ることを提唱したい。」ですと。これが飲み屋での会話なら笑って許せますが、こりゃ怖い。


でもこれは極端(であることを祈りつつ)だとしても、「昔はよかった」系の言説って、党派をとわず、けっこう流通しているものですよね。たとえば僕のいる業界だと、左派的と見られている、カルスタ系の研究。「国家」にしろ「家族」にしろ「恋愛」にしろ、そういうものが(たいてい明治期ごろに)「ある時点で恣意的に作り出されたものである」という批判を込めた主張が、おおむね結論になるのです。が、それってヘタすると、「そういう「文化」に毒されていなかったころ」をユートピア的に見てしまう危険性を孕んでいる。「江戸時代は国家などという観念はなかった(当たり前ですが)」とか、さらには「源氏物語の時代の恋愛は大らかだった」とか。それは結局は、「原日本探し」に荷担してしまうことになるんじゃないか。「五箇条の御誓文」に萌えるのと、江戸時代に萌えるのとでは、根本の欲望は変わらないんじゃないか。


「現状の日本が良い」という人はあまりいないだろうし、「これからの日本はどんどんよくなっていく」と考える人はさらに少ないかもしれない。たぶん主義主張を問わず、なんとなく、「日本は悪い方向に進んでいっている」という不安を抱えている。でもそういう(根拠レスな)不安に、「昔に返れ」言説が忍び寄る隙があるんじゃないか、などと思うのでした。