信頼

 今年はいろんな信頼が揺らいだ年だったといっていいと思いますが、僕的に一番信頼が揺らいだのが、朝日新聞でした。

 実は今もう朝日は取っていなくて、webで見るだけなのですが、それでもほとんど毎日見ておりました。しかし、今では、「不偏不党」という看板は、(自身は否定するでしょうが)もう完全にかなぐり捨てた、といっていいでしょう。

 個人的にポキッと折れたのが、一昨日引用したブログのネタ元であった12月11日付の社説でした。朝日のHPではすでに見られなくなっていますが、このブログエントリにはまだ全文が貼ってあります。


 最初に読んだ時から、どうにも違和感を感じた文章でした。何かが変。

 まず、ちょっと読めば誰でも気づくのが、こんなに短い文章なのにアッという間に矛盾が見つかるところです。終わりのところで、「前原は(無理にでも?)自民党との違いを出すべきだ」と言っておきながら(これ自体、なんだかなあ、という前提ではありますが)、その直前で、「小泉首相でさえこうは言っていないのに……」といっている点。無理に違いを出すのなら、首相とは反対に「中国は脅威だ」と言うのは、方法としては正しいんじゃないでしょうか。

 というのはまあ重箱突きの部類ですが、一番不思議な点。

 そう、この文では、この議論においての核心とも言える、「中国の軍事力は、本当に脅威なのか」がまったく述べられていないのです。

 もし「脅威なのだ」としたら、前原氏が「脅威だ」というのは、間違ってはいないことになります。むしろ、理屈から言えば、「無用な摩擦を避けようと」して脅威とは言わない首相のほうが姑息だ、といってもおかしくはないでしょう。

 あるいは、「脅威ではない」のだと主張するなら、もっと話は簡単です。「脅威ではない」のだから、「脅威というのは間違いだ」、と書けばいいのですから。

 しかしそのどちらも言っていない。「中国軍事が現実に脅威かどうか」を完全に棚上げして、「脅威と言う言わない」について論評を下すという、なんとも不思議な文章なのです。ということは、朝日にとっては、「実際に脅威であるかどうかはどうでもいい、とにかく中国に楯突かなければいい」という、なんとも「中国マンセー」な記事、ということになるのです。

 もちろん、朝日が「中国寄り」、というか「中国共産党寄り」なのは、まあ知っている人には今さら、という話です。しかし今まではそれでも、「なぜ中国寄りのスタンスを取るのか、取るべきなのか」について、それなりには説得力のある説明をしていたものです。しかしこの社説では、その説明を完全に放棄している。以前ならば、同じような題材でも、

 中国の軍事は確かに脅威かもしれない
 ↓
 しかし、それは日米に軍事力で対抗するためである
 ↓
 だから、中国を刺激しないようにしましょう
 ↓
 そうすれば中国も軍備増強をやめて、結果的にはみんなハッピーになれますよ

と、段階を踏んで、リベラル派をそれなりに納得させていたのに、今では、ただ「中国共産党を刺激してはならない、逆らってはならない」がすべてに優先する課題として、それに逆らうものを罵倒するのみです。

 もちろん、「中国共産党を刺激してはならない、逆らってはならない」というのは、別にそれ自体「間違っている」ものではありません。そういうスタンスもあるでしょう。しかしそれはもう、「不偏不党」などというものではありません。(狭い)サークルの内部でのみ通用するテーマ、といっていいでしょう。

 かくして、子供の頃から見続けてきた朝日新聞に対する、「客観性」という信頼も、終わりを告げたのでありました。ちゃんちゃん。